聴覚障害者のバレリーナ、菊池海麗さんについてのダイジェスト動画が、NHKハートネットから投稿されています。最初は小学生時代に、聴覚障害による音ずれを克服して健常者も参加する大会で6位入賞。もうひとつは中学進学後、生演奏で踊った話です。
祖母と母親のサポートで音ずれ克服
聴覚障害者のバレリーナ、菊池海麗さんについて、最初の動画は、2018年5月26日のNHK(Eテレ)『ろうを生きる 難聴を生きる「夢はプロのバレリーナ」』という投稿です。
当時小学5年生の菊池海麗さんが、コンクールで入賞するまでがまとめられています。
コンクールは障碍者の大会ではなく、健常者の中で唯一障碍者としての参加です。
菊池海麗さんは、プロのバレリーナを目指しています。
聴覚障害によって両耳とも人工内耳を使っているため、不規則なリズムの曲を踊ることが課題です。
コンクールの課題曲は途中でテンポが変わるため、リズムを正確に聞き取れず、身体の動きがずれてしまうからです。
鼓膜や耳の穴の形ではなく、聴いた情報を脳に伝える神経に障害がある場合、音ずれの克服は少し難しくなるようです。
武田由梨先生は、決して曖昧な言い方や、抽象的なポジティブシンキングには逃げません。
「音ずれっていうのは、バレエ界ではよくないんですね。音と動きがもう一緒じゃないといけないんですけど。たぶん、ずっと課題になると思います、海麗ちゃんの。改善策はいつも通りの練習そのままをずっと続けるしかない感じですかね。」
では、克服はどうするのか。
スピーカーに手を当てて振動を感じながら、それに合わせて楽器(動画ではカスタネット)を叩いてリズムを体で覚えることにしました。
さらに、耳が聞こえる祖母・春枝さんと、やはり聴覚障害者でバレエ経験のある母・樹理さんがサポート。
春枝さんは、スマホで動画撮影をして、その都度アドバイスします。
その結果、全国から小中学生や高校生などおよそ200人が参加した大会で6位入賞。
全国選抜大会への出場権も獲得しました。
オンタイムで演奏する音に合わせる
そして1年後に中学生になった菊池海麗さんを、再びNHKハートネットがダイジェスト動画を投稿しました。
初回放送が2019年12月14日(土) 午後8時45分~午後9時00分
昨年は小学生でしたが、今回は中学生になっています。
コンクールで入賞するなど、実力を認められた菊池海麗さんは、あるイベントで初めて生演奏をバックに踊ることになりました。
先のコンクールについては、課題曲のテンポが途中で変わることで、リズムを正確に聞き取れず、身体の動きがずれてしまう課題がありました。
ただ、曲自体はパッケージ化されたもの(CD)でした。
CDの演奏なら、何度演奏しても同じ演奏時間ですから、数稽古でタイミングをつかめます。
しかし、今回はまさにオンタイムで人が演奏しているのです。
人間が演奏しているのですから、同じ譜面を演奏しても、そのたびに演奏時間が変わります。
全く同じということはありません。
ですから、何百回、何千回演奏しても、本番は今までと同じではないのです。
これは難易度が高いというよりも、武田由梨先生が指摘しているとおりなら、聴覚障害者にとってはもう致命的な課題とも言えます。
ですから、指導している武田由梨先生は今回も厳しい現実を述べます。
「まだ、ちょっと音楽を待ってるというか、音楽と、ちょっとやっぱり遠い。そこを、難しいことですけど、どんどんどんどん、ちゃんと距離を縮めていくのに、血と汗と涙が必要ですよね。」
できていないことは、できていないと率直に指摘する。
上達には、ここはどうしても避けて通れません。
他の競技でも、勉強でも、仕事でも上達にはみなあてはまることと思いますが、上達はミーティングと反復練習の繰り返しです。
どこが課題なのかを徹底的に明らかにして、その克服の数稽古を行う。
さらにミーティングを重ねて、よりよいものにしていくのです。
中には、上達はほめる指導がいい、という潮流があるのですが、時と場合によるでしょう。
それでついてこけなければ、残念ながら、その人はそこまでの人。
障碍者を切り捨てるのか、と思われますか。
いや、障碍のあるなしではなく、先程書いたように他の競技でも、勉強でも、仕事でもいえる一般論です。
つまり、見込みのある人間かどうかに、障碍のあるなしは関係ありません。
そして、菊池海麗さんは見込みの「ある」バレリーナです。
公演は見事に成功しました。
動画では、ファンと思しき小学生の観客が話を聞いています。
菊池海麗さんは、動画でこうむすんでいます。
「聞こえなくて不安になり、友だちができないこともあったので、他の小学生の人たちがそんなことのないよう、元気づけられたらと思っています」
次回は、さらに大きなステージを克服する動画でお目にかかれることでしょう。
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